" つまりハルは、ただ使えるだけじゃなく、どう使うかも考えて習った、と言うこと。
ふと、素朴な疑問が浮かんだ。
「……皇族って、そんなに戦闘スキル要るのか?」
「さあ……俺にはなんとも」
珍しく、というか観戦を始めてから初めて、ジャンまで口を挟んだ。
だよなぁ。
正直なんか、護衛とか要らないんじゃ?的な強さなんだが。
いや、今は付いてないけどさ。
詠唱継続を使い、中級の風魔法を連続起動させるハル。
流石に擦り傷や切り傷が増えてきたシロが、苦笑した。
「ちょっと、甘く見すぎたか」
この台詞の後に紡がれたのは、コール・トス。
「<<其は脈打つ河川の真の姿>>」
詞に応えてシロの魔力が水飛沫を散らしながら形創ったのは、透明な水の龍。
うねる水流は圧巻の一言に尽きる。
水の龍は、躯が完全に形になるのを待ちもせず、出来た端からその顎を開いてハルに突進した。
自分が発動した魔法を物ともせずにねじ伏せ迫る魔法に、ハルが息を呑む。
この距離、このタイミングで詠唱破棄では、ハルにはあの速さの魔法は避けられない。
衝撃を覚悟して、防御魔法を展開し受け身の体勢を取るのが精々だ。
3年なら最上級の詠唱破棄くらい当たり前――――な、わけもなく、一斉に騒めく見物人。
驚きはあっという間に伝播して、真面目に模擬戦に励んでいた生徒たちまで手を止めた。
「……ルールが頭から抜けたな。やりすぎだ」
その騒ぎように、ぽつりと呟くジャン。
頷くエート。
俺はそれも楽しく見物中。
ハルの風の防御を易々と打ち消した龍は、そのままハルの身体を飲み込む。
数秒は水の中で口を閉じ意識を保っていたハルだったが、水の圧力と暴力的な流れには勝てず、ごぽりと空気の泡を吐き出した。
――――瞬間、夢か幻のように、水の龍は姿を消す。
しかし夢でも幻でもない証拠に、空を駆った龍に呑まれたハルは空中でその場に放り出された。
先ほど見た動きからすれば決して着地できない高さではなかったが、水に呑まれ根こそぎ体力を奪われた今のハルには、そこから着地する余力はない。
しとどに濡れたまま落下するハルを、対戦相手のシロが風で受けとめた。
勝負あり。
ぐったり座り込むハルに、近づいて「お疲れ」と声を掛けた。
俺に付いてきたジャンとエートもそれぞれハルの健闘を讃えたが、しかしそれだけでは終わらない。"